顕微鏡歯科

顕微鏡歯科治療について

顕微鏡歯科治療について

顕微鏡歯科治療とは日本ではまだなじみの薄い言葉ですが、欧米ではすでに治療分野としても知名度が上がっています。顕微鏡歯科とは文字通り、歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)を使用して治療を行うことです。一本の歯を治療するのにより精密で精度の高い治療を行うために、我々歯科医師が4倍から25倍まで拡大可能な顕微鏡を見ながら治療を行います。
歯の治療はみなさんが想像される通り、とても細かい治療になります。確かに肉眼で治療できないことはありませんが、治療をしていく中で確実に見えない場所があり、そこはほぼ経験に頼る治療になります。しかし、この見えることと、見えないことでは、そこに診断基準が大きく変わってくることがあります。例えば、見えないことによる診断不可能な歯は抜歯になってしまうことはよくあります。ところが顕微鏡を使うことにより、予後不良歯であっても保存可能となることはたくさんあります。つまり歯を残せる可能性が拡大するということです。

保険治療と自費治療について

歯の治療に良い治療、悪い治療などというものはなく、歯をしっかり治そうとすればそれは、ゴールドスタンダードといわれる最も歯のとって良い方法、良い材料を使って治療することは当たり前のことです。ですから欧米では保険治療はありませんので、当然ゴールドスタンダードといわれる治療の方法、術式を採用するわけです。治療に顕微鏡(マイクロスコープ)を使用することも常識です。ところが日本では保険治療というものがあるため、材料、コストにおける制約があり、治療のやり方も検討せざるを得ません。そのため日本の歯科治療の特徴ともいわれる保険治療が治療の質に変化を伴う結果となってしまっていることも事実です。

なぜ顕微鏡歯科治療なのか

なぜ顕微鏡歯科治療なのか

顕微鏡歯科治療は我々がかつてから望んできた明視野での治療を可能にする治療です。
歯の治療は肉眼では見えない領域があり、治療をするにあたっても、経験や機械に頼るところが多かったと思います。ですから歯科の治療技術の良し悪しはその経験年数によるところも多かったと思います。ところが顕微鏡を使用することにより、今まで行ってきた治療に盲点がたくさんあることに多く気づかされました。もちろん顕微鏡を使わずして行ってきた治療すべてを否定はしませんし、それでも治療の精度と高めようと努力してまいりました。しかしどんなに慎重に診査診断を行いどんなに丁寧に治療を行っても、顕微鏡で覗くと、その治療の甘さを痛感いたします。ですから今では精密治療には顕微鏡は必ず必要だと思いますし、そしてどんなに器用で経験年数のながい歯科医師であっても、顕微鏡を使いこなすことができる研修医のほうが、もしかしたら良質な歯科医療を提供できるのではないかと、そんなことすら感じます。それくらい歯科の治療において、見えるということは価値のあることなのです。

顕微鏡歯周治療

歯石除去

歯周治療の基本治療はまずブラッシング等のセルフケアの確立と歯石除去となります。歯周病の持続的な進行と歯肉の炎症を抑えるためには確実な歯石除去が必要となります。
多くの場合歯石除去においては歯周ポケットの深さによっては歯石残存率が高くなります。
臨床データでは歯周ポケット4mm以上になると歯石残存率が高くなり、5mm以上では約80%歯石を取り残していると言われています。その結果治癒しない歯周病は歯周外科手術を行うことにより歯石の完全除去を行うこととなります。
しかし、この歯周ポケット内の歯石もキセノンライトを有する顕微鏡下で歯石除去を行えば、かなりの確率で歯石除去が行えます。結果、歯周外科を行わずしても歯周病が治癒することは多くあります。もちろん歯周病の進行状態によっては外科的治療が適応となるケースもありますが、できるだけ顕微鏡下で非外科的に歯周病治療を行えば、そのほうが患者さんにとっても最小の侵襲で最大の結果が得られると信じております。

顕微鏡根管治療

顕微鏡根管治療

実は顕微鏡等を用いた精密治療を受けることで患者さんの口腔内はとても健康的になります。ところが「痛みがなければよし」と歯科医も患者もそう思っているのが、日本の歯科医療の現状であり、そのため日本では多くの人が歯を失っています。痛みを伴わない歯については患者さんも歯科医も深刻にこれを受け止めていない。このことからしても日本の歯科医療が北米に後れを取っているのはそもそも診断基準にあると思います。根管治療を例にとると日本の歯科医のおおよそは痛みがなければ、歯根肉下種や歯根嚢胞などの根尖病巣もそのままにしておく傾向にあるが、北米の歯科医は徹底的にそれを治そうとする。なぜなら患者がそれを治すことを望むからです。だから日本の根管治療と北米の根管治療の質的な違いに差が出てくるのは当然だと思います。80歳で20本以上の歯を残している人は残念ながら20%に満たない。歯の抜歯理由の80%をしめているのが歯根破折であり、歯根破折は根管治療の繰り返しによって歯の質がもろくなってしまうために起こります。根管治療は多くの場合一度治療されても再感染を起こし、根尖になんらかの問題を残しています。
日本でスタンダードに行われている根管治療では残念ながら再感染なく順調に経過している例は全体の40パーセント位です。なぜならこの術式では根管内の感染物質の除去は確実ではないからです。根管内の確実な感染物質の除去のためにはマイクロスコープ(顕微鏡)が必要であり、日本ではその普及率は8%に満たない。北米の根管治療ではマイクロスコープを使うことはもはや常識です。根管治療の成功のために必要なことは、根管内の確実な清掃拡大で、もし根管内の汚れの取り残しがあれば、それは確実に再感染のリスクとなります。ですから、根管治療の成功率を上げるためには、まず見える根管治療、つまり顕微鏡治療が必要でこの場合根管治療の成功率は70~80%まで向上します。では残りの20~30%は何か、それは歯根の質的な強度であったり、歯根の亀裂または破折であったり、つまり感染物質以外の問題によって引き起こされる要素です。

全ての歯科治療に顕微鏡を

歯の治療に精度が要求される以上、全ての歯科治療に顕微鏡は必要だと思います。それは歯を精密に仕上げるために要求される技術的な治療精度が我々歯科医師の肉眼で見えるレベルをはるかに超えているからです。当然仕上がった歯を診査する視覚レベルが低ければ、仕上がった歯もそこそこだと思います。経験と天性の器用さでたまたまうまく仕上がることもあるかもしれませんが、それはたまたまです。歯の治療は残念ながら精密機械のように常に一定レベルの質を常に提供できるわけではなく、人が技量と経験と治療環境に基づいて行われています。だから、歯の治療に精密さと質を求めるのであれば、それを提供する側の治療環境はとても大切です。そのために顕微鏡は必要ですし、ある歯科医師一人がよい治療ができるのではなく歯科医師であればだれでも同じ良質な治療が提供できるゴールドスタンダードを築くことが精密治療の根本であると思います。

当院のマイクロスコープ

当院のマイクロスコープ

ZEISS社OPMI PICO MORAインターフェースキセノン 現在の歯科治療に対して、患者さんが望むこと、それは的確な診断と最良の治療であり、そしてそれを可能にする道具がZEISS社OPMI PICO MORAインターフェースキセノンであると私は思います。肉眼で見えないものを見えるようにするためには、道具の選択も重要です。
数多くあるマイクロスコープのなかでもZEISS社OPMI PICO MORAインターフェースキセノンはレンズの質と光学技術に優れており、世界トップシェアを誇っています。
顕微鏡を使いこなすためには高度な技術を要求するため、そのためのトレーニングを積むことは確かに大切です。しかし顕微鏡の優劣によっては使いやすさも用途も変わり、治療の質にわずかながらも影響が出るものかもしれませんので当院では治療の内容により顕微鏡を選択しております。現在当院ではZEISS社OPMI PICO MORAインターフェースキセノン2台と、優れた光学性能を誇るライカM320、マニーと4台の顕微鏡を設置しております。

精密治療

精密治療とは一体何でしょうか?

精密治療とは一体何でしょうか?

それは一本の歯を治療するのに今ある最大限の治療技術、設備、材料をもちいて治療を行うことです。一本の歯を仕上げるためには、歯とかぶせもの、あるいは詰め物の適合制度はミクロン単位の精度が要求されます。あたりまえのことですが、かぶせもの、詰め物の適合精度が悪ければ、すぐに細菌感染によりむし歯になります。

具体的に精度をあげるためにはマイクロスコープあるいは拡大鏡を用いた顕微鏡歯科治療を行います。

当院で歯を仕上げるまでの精密治療の流れ

  • マイクロスコープおよび拡大鏡を用いた根管治療

    根管治療(根の中の治療)は欧米ではマイクロスコープを使うのが常識とされています。日本では残念ながらマイクロスコープの普及率が2~3%というのが現状であり、日常臨床ではほとんど使われていないのが現状です。 歯の根管の中は形状が複雑で肉眼ではほとんど見えないため、手探りでの治療がほとんどでした。しかし4倍~20倍のマイクロスコープを用いることで確かな視野を確保し、確実な治療および診断が可能となります。

  • MTAシーラーを用いての根管充填

    MTAの特徴は酸化カルシウム等の無機酸化物が水和物を生成し、硬化する過程で水酸化カルシウムが生成され、高いPH値を示します。また、骨組織に対する生体適合性を有するので根管治療にMTAを応用することにより安定した予後が期待できます。

  • ファイバーポストおよびゴールドポストを用いた負担の少ない支台築造(土台作り)

    歯の喪失原因のほとんどは、この支台築造にあるといってもいいほど大切な治療過程です。 歯が抜歯になる診断の一つに歯根破折というものがあります。これは歯の歯根が咬合力によって破折してしまうことです。歯の喪失原因の80%は歯根破折であると思われます。 なぜこのようなことが起こるのでしょうか? それは治療を繰り返された、うすい歯質に固い金属の土台をいれて咬ませるからです。このようなことが起こらないようにするため、歯の中に入れる土台は適度な弾性を持ったグラスファイバーかゴールドが良いとされています。

  • マイクロスコープおよび拡大鏡における形成(歯のトリミング)

    適切な根管治療、支台築造が終わればいよいよ支台歯形成といわせる歯のトリミング作業に移ります。ここが歯のミクロン単位の精度を決めるとても大切な作業となります。かぶせる歯との境界線(マージンライン)はなめらかできれいな曲線を描かなくてはなりません。 この作業を適切に行うためには術者の技術的な要素も大切ですが、もっと大切なことは術者の視野の確保を行うため、マイクロスコープや拡大鏡を使用することです。肉眼でどんなにきれいなマージンラインを描いたとしても、マイクロスコープにて確認を行うとそのマージンラインは決してなめらかではありません。ミクロン単位の精度を求めるためには肉眼での視野では限界があるのです。

  • テンポラリークラウン(仮歯)における支台歯マージン(かぶせものと歯の境界線)の調整

    歯の仕上げに際して、その完成度を評価する要素として歯の形態、色調は大切ですが、それともう一つ歯と歯肉との審美的なバランスはとても大切になります。 テンポラリークラウンとは仮歯のことを言いますが、単に一時的に機能回復をすることだけが目的ではなく、テンポラリークラウンのマージンの形態を調整することにより、歯を入れたときに調和のとれる歯肉形態をここで作り上げます。

  • マージンにおける歯肉圧排(ダブルコードテクニック)

    最終的に支台歯と理想的な歯肉形態が仕上がったらいよいよ印象採得(型どり)に入ります。ここまで仕上げてきた精密治療の総括となり、最も大切な治療過程です。 まず、良好な印象採得をするためには、歯と歯肉の境界線(マージン)が明瞭に取れることが大切です。そのために歯と歯肉の境界に圧排糸といわれるサイズの違う2種類の糸を挿入し、歯と歯肉の間に0.5mm程度の隙間を作ります。そこに変形のない印象材を流し込みます。

  • シリコンラバー印象(シリコンラバーを用いた変形のない型どり)

    歯肉圧排を行った歯の印象は細部にしっかり流れ、かつ変形したりちぎれたりしない材料を使います。歯科で一般的によく使われる印象材は寒天です。寒天は親水性があり細部によく流れますが、変形しやすく強度が弱いため、精密治療においてはシリコン印象材を用います。 以上の流れを経て印象採得された模型で歯の製作が行われます。 精密治療は、一般的に行われる保険診療と比較し、治療経過も長く処置内容も多種にわたりますが、本来歯を仕上げるとはこういうことだと私は思っています。ただ痛みがとれて、咬めればいいということだけではなく、お口の中でいかに自然で機能的、そして長期的な安定を得るためには、作られた歯も異物ではなく、臓器でなくてはなりません。そのために精密治療としての手間と材料を惜しむことなく一本の歯を仕上げるために努力してあげることが必要不可欠です。